2005-10-20 18:29:52
道が渓流を離れたと思うと [ ブログ ]
小さい村をいくつか通った。チラチラと村の人に逢う。男も女も頭巾をかぶって、股引のようなものを穿いていた。
珍らしそうに、その顔を見ながら行った。私はその中のどの顔も、いま私が訪ねて行く友人に似ているところがあると思われた。まるい輪廓のぼっとした、目と鼻の小さい、赭黒(あかぐろ)い顔。それを見てこの人達も私の友人のような封じられているような声でものを言うのだろうと思った。
馬車を継ぎ代える、宮守と言う村に着こうとする時には、雪がまた前よりもひどく降り出した。
宮守も土沢に似た町並をしていた。馬車が着くと雪の降る中に、村の人が幾人も立って迎えていた。ここで私達はいままでの馬車を降りて、遠野から来ている馬車に乗り継ぐのである。着いたのはかれこれ三時半過ぎていた。
馬車は或る家の戸口で止った。車の中でからだを堅くして、身に沁むような寒さを忍んでいた人達は急いで降りて家の中にはいった。入り口に火がある、それをすぐ取りかこんだ。
前の馬車の連中は上った、すぐ次の間でもう炬燵にはいっていた。私達がはいってくるのを見ると、例の赭顔(あからがお)の紋付がにやにや笑いかけた。
私達は二階に通された。おなじ馬車に乗って来たのだと言うためか、私達の四人は一つ室で食事をした。
私はからだが非常に疲れているので、食事にはただ卵をと注文した。すると、ほかの三人は不思議そうな顔をして私を見た。
ここはもう花巻から七里ばかり離れている。この半日以上同じ馬車に乗っていて、私は誰ともろくに話さなかった。二言(こと)三言(こと)老人にものを聞いただけであった。どの人の顔も他人らしい表情をして私を見た。
